放置竹林をアート作品にしたら1ヵ月で2万人以上のお客さんが来た
こんにちは。
田上町 地域おこし協力隊のヤマグチです。
「今度まち全体を巻き込んで、竹を生かしたプロジェクトをやろうと思うんだけど」
初めてその話を聞いたのは去年(2022年)の7月終わりごろ、道の駅の食堂で打ち合わせをしている時でした。
「九州に竹あかりのプロがいるからその人たちも呼んで、まちのみんなで竹林整備しながら竹あかりでアート会場を作る予定。ヤマグチくんにも手伝ってほしいなって。これ一応資料ね」
——そして約2ヶ月後の10月1日。
「さん!にー!いち!……点灯です!!」
「おぉーーー!!」
点灯式の会場で運営メンバーの皆さんとイベントスタートを喜んでいたヤマグチでしたが、この時にはまだ想定の倍以上となる2万人以上の来場者を記録するようなイベントになろうとは、想像もしていませんでした。
放置竹林や廃棄竹の問題を、町民みんなで”楽しみながら“解決していくプロジェクトが走り出したこの年。
新潟にある小さな小さなまちが、大きく動き出した数ヶ月をご紹介しようと思います。
タケノコの名産地、でも課題はたくさん
「ほら!食ってみ」
そう言われて包丁に乗ったスライスを食べたらびっくり。
その場でさばいた掘り立ての生のタケノコはまるで「梨」のようでした。
アク抜きがいらないと言われても半信半疑だったヤマグチですが、本当にアクやえぐみも少なく美味しいタケノコが育つんだなと実感したことを、今でも憶えています。
ヤマグチが住む新潟県内の小さなまち「田上町」には約17ha、東京ドーム3.6個分もの竹林が存在し、4月から5月頃になると非常に美味しいタケノコを楽しむことができます。
毎年シーズンになると町内外から多くのお客さんが朝掘りタケノコを求めて列を作るようすも見られます。
しかし、そんな自慢のタケノコと共に年々深刻になりつつあるのが、放置竹林を始めとする竹林管理の問題です。
実際に町を見渡すとあちらこちらで目につく大小様々な荒れた竹林——
(個人で管理されているであろう)綺麗な竹林ももちろん見られますが、「写真を撮りたいので綺麗な竹林どこか知りませんか?」というヤマグチの相談に具体的な場所を教えてくれる人は誰もいませんでした……
「うちのまちには美味しいタケノコがある!」
「だったら竹林もまちの自慢になるような新しい価値に出来るんじゃないか?」
町民たちの悩みのタネである竹林問題を何とかできないかと、ついにまちの商工会青年部が立ち上がりました。
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地元発、地元産のプロジェクト発足
プロジェクトは2022年6月頃から本格的に動きだしました。
今回の企画は放置竹林を活用し、出来るだけ多くの町民参加のもと、竹あかりによるインスタレーション(バンブーアート)を町内各所に設置。県内外から観光客を呼び込むことはもちろん、地元民にもまちの魅力を再認識してもらおうというものです。
「竹でみんなを驚かそう」というメッセージを込めて、イベントの名前は「たがみバンブーブー」と決定しました。
そしてもちろん、この企画の成功にはまち全体の協力が不可欠です。
商工会青年部を中心に、道の駅、役場、観光協会、旅館組合、地元小中学校や近隣大学などを実行委員会メンバーとして迎え入れ、プロジェクトは発足しました。
そして重要なのは町として初めて取り組むこととなる、バンブーアート制作における指導者です。
「やるんだったらホンモノを」ということで、今回パートナーとしてお声がけしたのは日本発、世界初の竹あかり総合プロディース集団「CHIKAKEN」さん。
日本ではもちろん、世界各地で竹あかりを使ったイベントやまちづくりの空間演出、展示、ワークショップなどを実施するまさに“ホンモノ”のプロ集団です。
まちの協力者たちも集まり、これ以上ない制作指導者のもとで2022年8月、ついにバンブーアート制作の初日がスタートしました。
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町内外100名以上の協力者たちと
今回「たがみバンブーブー」の会場となるバンブーアート設置場所は町内4ヶ所。
①道の駅たがみ
②たがみバンブーブー竹林(町内竹林)
③椿寿荘(町内文化財)
④湯田川温泉旅館4館
基本的にバンブーアートは「竹灯籠」と「竹まり」で構成されます。もちろん全てまちの竹を切り出し、手作りでの制作です。
今回4会場で使われる竹灯籠は大小合わせて約430本、竹まりは約50個必要となる計画。さすがに実行委員メンバーだけは時間も人手も足りません……
そこで!ボランティアとして作業を手伝って頂ける方、通称「たけのこ団」を募集することに。町内外から老若男女、様々な方達にご協力頂きながら制作は進められました。
また地元小中学校も巻き込み、ワークショップを開催。
大人だけでなく、子どもたちにもまちの新たな魅力に気付いてもらえるよう竹灯籠制作、そして竹の切り出しも体験してもらいました。
こうして約2ヶ月の制作期間は多くの方達の協力のもと進められ、来たる10月1日——
道の駅たがみでの点灯式を合図に、2022年初開催となる「たがみバンブーブー」がついにスタートしました!
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「たがみバンブーブー」ついにスタート
当日まで会場で作業していたほどギリギリで迎えた点灯式でしたが……
「さん!にー!いち!……点灯です!!」
「おぉーーー!!」
多くの人に見守られながら、みんなで作りあげた各会場のバンブーアートは無事一斉に点灯されました。
お待たせしました。
みんなで汗水垂らして一生懸命制作したバンブーアートと、各会場の様子をご紹介しようと思います!
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①道の駅たがみ
広場のテント下にバンブーアートを設置した無料会場。
テーブル・イスが常時設置されている上、期間中は毎日23時まで点灯しているため、自由にゆっくりとバンブーアートを楽しむことができる。
点灯式、最終イベント「たがみバンブーバル」の実施会場。
②たがみバンブーブー竹林
まちの竹林を整備して、バンブーアート回廊が楽しめる無料会場。
中心にはフォトスポットもあり、たがみバンブーブーを象徴する会場の一つ。
③椿寿荘
田上町の豪農”田巻家”の離座敷。枯山水の素晴らしい庭園にバンブーアートを設置した唯一の有料会場。新潟市在住のアートディレクター小出真吾氏による幾何学模様のバンブーアートも散りばめられ、館内は非日常的で特別な空間に。
④湯田上温泉旅館4館
湯田上温泉旅館4館「ホテル小柳」「越後乃お宿わか竹」「食べるお宿末廣館」「旅館初音」の軒先を中心にバンブーアートを設置。
みんなの想いがこもった各会場がついにオープンした喜びもつかの間、ここからが本当のスタートです。
たがみバンブーブー竹林については、実行委員やボランティアメンバーによって駐車場での誘導や竹林内の警備が毎日行われました。
初めはポツポツと地元の方らしき人が「入っていいの?」と見にくる程度でしたが、TV放送や新聞、SNSキャンペーンの効果もあり、日に日に増えていく来場者。
「最近ホント毎日インスタで見るんだよねー。ここの写真」
インスタでの発信を中心に頑張ってきたヤマグチにとって、警備中に聞こえてきたこの女子高生たちの会話は本当に嬉しかったことを覚えています。
そしてイベントスタートから2週間ほど経ったころには、すでに竹林オープンの17時前から人が並ぶ盛況ぶりに。週末ともなると竹林内で誘導しないと人が詰まってしまうほどフォトスポット周辺は特に大混雑でした。
実行委員メンバーも順調な来場者数を喜びつつ、頭をよぎるのは全員同じ心配です。
「これ最終の土日ヤバくない……?」
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あっという間の1カ月、そしてグランドフィナーレへ
汗をかきながら駐車場で竹と格闘していた日々から点灯式を迎え、気がつけば配られたTシャツでは夜の警備が寒く感じる季節になっていました。
たがみバンブーブー竹林と椿寿荘の来場者数は、当初予想していた1万人をあっという間に突破し、最終の土日前には2万人を超える見込みに。人口約1.1万人のまちに、1カ月間で倍以上の人が訪れるという結果となりました。
そしてイベントのラストを締めくくる10月29日, 30日は、道の駅にて「たがみバンブーバル」が開催されました。
バンブーアートを楽しみながら地元食材で作られたピンチョスやパエリアなどを楽しめるこのイベント。「田上じゃないみたい!」と最高の褒め言葉?も聞こえてくるほどに、グランドフィナーレとしてふさわしい、華やかで楽しい二日間となりました。
もちろんこの土日は道の駅以外の会場もオープンしており、みんなが心配していた竹林は予想通り人で溢れかえる状況に……
付近の道路は終始渋滞し、20時の終了時間になっても入場を待つ行列は途切れず、急遽点灯時間を延長することになりました。警備にあたったメンバーから(かなり悲鳴寄りの)嬉しい悲鳴が聞こえてきたのは、お察しの通りです……皆さま本当にご苦労さまでした!
そしていよいよ最終日10月30日の20時——
この時ばかりは空気を読んだのか降り続いていた雨も止み、バンブーアートに負けないくらいきれいで大きな打上げ花火とともに、1カ月間開催されたたがみバンブーブーは幕を閉じました。
「たがみ?どこそれ?」
なんて言われることの方がまだまだ多いまちではあるけれど、多くの人の記憶に残ったことはもちろん、町民の人たちにとっても胸を張って自慢できる1カ月だったと思います。
「たがみ?あーあの竹でいろいろやってるとこでしょ?」
そんな声があちこちから聞こえてくる日が待ち遠しいです。
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最後に
「これ終わったらどうするの?もらえる?」
期間中にとっても多かったこの問い合わせ。
残念ながら制作したバンブーアートはカビや割れなどがあるために、人にあげることも来年まで保管することもできず、一部を除きバラバラにして撤去してしまいました。
しかし、そのまま廃棄してしまうわけではありません。
竹と言えば、そう「竹炭」です。
竹炭には実は様々な使い方があるそうで、今回は土壌作りの効果に着目。
解体したバンブーアートは竹炭にして、農家の皆さんの畑にまき、野菜などの農作物を作っていただくことになりました。
早ければ今年の夏ごろには”バンブーブー野菜”が道の駅の店頭に並んでいるかもしれません。
「たがみバンブーブー2023」も開催が決定しました。
今年も精一杯、このまちの竹を楽しみたいと思います。
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今回は、地域課題だった竹林をバンブーアートにすることで新たな価値を生み出したプロジェクト「たがみバンブーブー」についてご紹介しました。引き続き、ヤマグチが得た田上町のモノ・コト・ヒトを少しづつ発信、共有していこうと思います。
もしお時間ありましたら他の記事や町のHP・SNSなども覗いて頂けたら幸いです。
田上町について、お時間を割いて下さりありがとうございました。
地域おこし協力隊のヤマグチがお届けしました。