コロナ禍で生まれたおじぞうさんと応援歌
こんにちは。
田上町 地域おこし協力隊のヤマグチです。
ある日、まちの道の駅に見たことのない絵が、何枚も飾られていました。
カラフルな色で描かれているのは、かわいらしいおじぞうさんと、背中を押してくれるようなメッセージの数々。
これが初めて藤田さんの作品を見た日でした。
それから約4か月後——
「実は本を出版することになりました!」と連絡が。
数日後、ヤマグチはたくさんの作品が展示されたギャラリーで取材をしていました。
「私が伝えたいのはこの言葉なんです!」
「あっ、この言葉もぜひ入れてください!」
柔らかで優しい絵とは裏腹に、熱い想いを懸命に語る藤田さんがこの作品を描き出したきっかけは「コロナ」。
自分と同じように生きづらさを感じている人に”寄り添いたい”と、日々筆を走らせている藤田さんの想いや活動を、今回はご紹介しようと思います。
ギャラリーは元お寿司屋さん
「今度本を出すことになったので、ぜひ一度お話できませんか?」
以前ヤマグチが書いたnoteの記事を見たということで、わざわざLINEをくれた藤田郁美さんとは、知り合いのご住職をきっかけに連絡先を交換していました。
今まで自分から取材の依頼をしてきたヤマグチにとって、「私の取材をしてください」と言われるのは初めて経験です……これは、素直に嬉しい。
「ぜひお話し聞かせてください!」と二つ返事で引き受け、後日、藤田さんの作品が多く飾られているギャラリーへお邪魔することになりました。
——取材当日。
案内してもらった駐車場に車を停めると、目の前には瓦屋根の純和風な建物。
そして「どうぞー」と言って案内された先には、コンクリートの床が続く明らかに厨房だったスペースが広がります。
「今は閉店しちゃったお寿司屋さんをギャラリーとして使わせてもらっているんです」
そう話は聞いていたものの、いざ来てみるとその名残りが想像以上に残る造りに驚き。
入口のインパクトがありすぎて、すでにワクワクが止まりません。
そしていよいよ厨房を抜けて先へ進むと、お座敷やカウンターにところ狭しと展示された作品たちが登場しました。
「ここ元々カウンターですよね?この雰囲気いいですねー」と興奮気味にシャッターを切るヤマグチに、「どうぞ飲んでください!」とこの店の元女将さんが飲み物を持ってきてくださいました。
実は藤田さん、高校の3年間このお店でアルバイトをしていたそうで、女将さんとは学生時代からのお付き合い。お寿司屋さんの跡地に作品が並ぶのも納得です。
「ここのアルバイトはめちゃくちゃ楽しくって!高校卒業して就職してからも、お店のチラシとかは描き続けてました」と笑いながら話す藤田さん。
そんな話を聞かずとも、楽しそうに話すお二人はまるで母と娘のようで、お互いに信頼し合っている様子がひしひしと伝わってきました。
・・・
筆と指で描き上げる作品
いまヤマグチの机に飾ってあるこのステキな作品。
取材当日に、藤田さんがその場で描き上げてくださった作品です。
絵を描くところも撮れたら嬉しいな、と思っていたところ、「道具持ってきたので」と目の前で1枚描いていただくことになりました。
ギャラリーとは別のお座敷に移動し、バッグから取り出したのはカラフルなケースに入ったクレヨン。
そして何の迷いもなく描き出したと思ったら筆が早い早い……
ちょっとでもよそ見をしていると、写真も撮り逃してしまいそうな勢いで描き進めていきます。
おじぞうさんの輪郭をものの数十秒で描き上げると、おもむろにクレヨンを指につけ、その指で色をのせていく藤田さん。
「父親に教わったのが最初かなー」というその手法によって、どこかやわらかく、やさしい印象のおじぞうさんが鮮やかに描かれていきます。
描き出しから5分ほどでアッという間に完成。
しかしたった5分でも、目の前で描いてもらった作品を直接頂くと、それだけでその作品は自分にとって特別なものになるから不思議です。
オーダーを受けて描くこともあるそうなので、「SNSとかでライブ中継しながらお題をもらって、描いた作品は購入できる、とかやってみたらおもしろそうだな……」などなど、最近SNS関係を勉強することも多いヤマグチはいろいろと妄想してしまいました。
何はともあれ、自分にとって一つストーリーが生まれたこの作品は、長いことデスクに飾られることと思います。
・・・
自分たちへの言葉から、誰かのための応援歌へ
「コロナがきっかけで、書き始めたんです」
どうしておじぞうさんの絵を描き出したのか?という質問への回答は、予想外のものでした。
本を出版するにあたり、藤田さん自ら出版社へ送ったという文章にはこのように書かれていました。
「何も言わないけど、そっと寄り添ってくれるようなおじぞうさんと、つらい時期に自分がかけてほしかった言葉を合わせて書き始めたのがきっかけです」
スタートは自分のために描き始めたという藤田さん。
しかし、2021年の夏に個展を開催したところ、来場者の方たちから多くのあたたかい言葉や手紙をもらったことで、この作品によって自分だけでなく周りの人にも寄り添えないかと思い始めたそうです。
そしてこれが本の出版を決意した理由でした。
そんな強い想いで出版されたこの本には、厳選された32作品が収められています。
きっとあの筆の早さを見るに、ギャラリーに展示されている以外にも、数多くの作品を生み出しているであろうことは容易に想像がつきます。
大小さまざまな作品を眺めながらふと気になり、「思い入れのある作品や大切にしている作品などはありますか?」と聞くと、「やっぱり子供に向けて描いた作品ですかね」とすぐに答えが。
本を開いて3枚の作品を見せてくださいました。
それぞれの作品に描かれているのは、励ましや希望を伝える言葉、そして親から子へ向けた力強いメッセージ。
「今はまだよく分からなくても、いつか子供が大きくなった時に伝わればいいなと思って」と言う藤田さんは、現在小学5年生になる息子さんのお母さん。
会社勤めをしながら子育てと創作活動を続けるその想いの強さは、ヤマグチでは到底計り知れません。
・・・
ここまでお話を伺っていると、会話のなかではもちろん、作品に描かれるメッセージにも”寄り添う”というキーワードが多く登場することに気が付くと思います。
なんだか耳心地がよいなと思っていたこの言葉——
相手を否定もせず肯定もしないこの表現に、個人的に好きな「二念を継がず」という言葉と、何か近いものを感じたのかもしれません。
妄想を簡単に膨らましてしまう、頭でっかちな人間にとって、とても大切な考え方だと思っています。なかなか実践は難しいですが……
環境が刻一刻と変わり、さまざまな情報やだれかの意見、評価などが日々飛び交う今の世の中では、ムダな妄想も膨らみ、不安定な気持ちにもなりがちです。
そんな時に、あれこれ言わずにただ寄り添ってあげるというシンプルな行動を必要としている人は、少なくないのかもしれません。
そんなことを勝手に考えながら、藤田さんの”寄り添う”メッセージが、だれかのための応援歌として広まっている理由も、なんだか1人で納得してしまいました。
・・・
最後に
お話を伺った次の日、さっそく藤田さんからお礼のLINEが。
絵文字がたくさん入った元気いっぱいなメッセージの後には、「大好きな海と空をバックに撮ったお気に入りの1枚です」と写真が添付されていました。
きっとこういう時間を、とても大切にしているんだろうなぁと感じる1枚。
自身や子供だけでなく、生きづらさなどを感じている誰かにも寄り添えないかと、活動を続けている藤田さんの原動力が、この写真から少しだけ分かったような気がしました。
・・・
今回は、まちで創作活動をしている藤田郁美さんについてご紹介しました。引き続き、ヤマグチが得た田上町のモノ・コト・ヒトを少しづつ発信、共有していこうと思います。
もしお時間ありましたら他の記事や町のHP・SNSなども覗いて頂けたら幸いです。
田上町について、お時間を割いて下さりありがとうございました。
地域おこし協力隊のヤマグチがお届けしました。