まだまだスマホは高齢者にとって便利とはほど遠い存在? ~まちのスマホ相談室を2年間やってみて~
こんにちは。
田上町 地域おこし協力隊のヤマグチです。
「もう変なところ押したら自分じゃ元に戻せないし、説明書もないでしょ?」
「全然興味ないのによく分からない通知がやたら出てくるし…メールも広告ばっかりだしねー消すのも毎回面倒くさいのよ」
「電話鳴ってもうまく出られないんさ。変えろって言われて持たされたけど……俺はガラケーで十分だったのに」
まちの道の駅といっしょに始めた「スマホパソコン相談室」も約2年が経ち、年間で約200名前後、本当に多くの方たちの相談を受けてきました。
しかし「〇〇ができるって聞いたんだけど私のスマホもできる?教えて!」とスマホを積極的に使いこなそうと相談に来る方はほんのわずか。
実際は、基本的な使い方すら周りに聞ける人がいなくて困っていたり、詐欺広告の表示や見たことのない通知が出たことで不安になって来る方が相談者の大半でした。
そうして相談を受けてきて分かったのは、多くの高齢者にとってまだまだスマホは、便利とは程遠い道具だということ。人によってはただただ”怖い”存在になっていると感じることも少なくありませんでした。
10年20年と時間が経ち、世代交代がさらに進めばどの世代でもスマホを使いこなす時代が自然とやってくるとは思います。
じゃあスマホに、デジタル化について来れなかった今の高齢者世代は取り残していってしまうのか……
この状況を解決する方法を提案します!
なんてことはとてもできません。
ただヤマグチの経験や、感じたことをこうして文章に残し、共有することで、皆さんの身近な場所でもきっと起こっているこの現状について、知ってもらう、考えてもらうきっかけになればと思います。
道の駅と一緒に取り組んだ『スマホパソコン相談室』
まちの情報発信をメインミッションに、2021年12月からスタートしたヤマグチの地域おこし協力隊生活。
「一人でやれることは限界があるから、町民の皆さんにもまちのことを発信してもらえばいいのでは?」
↓
「みんながSNSなどの情報発信ツールを使っているわけじゃないから、知らない人には使い方を教えていこう」
↓
「そのためにはまずスマホ(パソコン)も最低限使えるようになってもらわなきゃ」
そんな甘い考えで始めた『スマホパソコン相談室』は、たまたまタイミングが良かったこともあり、まちの道の駅(やさしい道の駅たがみ)と一緒に始めることに。結局その後、協力隊退任までの約2年半、毎週続けることになったこの活動の初回は2022年5月のことでした。
何か特別こだわりがあったわけではないですが、”教室”ではなく、聞きたいことに対して答えていく”相談”方式で進めたいとは初めから考えていました。聞きたいことがあったら「どうもー」とふらっと寄ってもらい、その相談に対して自分たちが答えられる範囲で答える。もし分からなければ調べられる範囲で調べてあげて「おぉーできましたねー」と一緒に喜ぶ。それぐらいの温度感で進められる方が、自分の性格上も長く続けられると思ったから。
実際、来てくれる多くの方から聞くのは「教室も行ったことあるけど、聞きたいことには答えてくれないのがストレス」「携帯ショップに聞きに行くこともできるけど予約が必要だし、遠いから中々腰が上がらない」と言った声でした。
”まずはやってみないと何事も”の精神でスタートした『スマホパソコン相談室』でしたが、徐々に口コミで評判も広まり、数か月が経つ頃には毎週5人前後から多い時には10人以上の方が来てくれるようになりました。
しかし当初の目的である『町民みんなでSNS発信作戦』は完全な作戦ミスであることが判明。
いらっしゃる方のほとんどは高齢者で、スマホの基本的な操作ができれば優等生。出来ない人の方がほとんどでした。タッチ操作もおぼつかない方に「インスタアカウントを作るのはすぐできますよ!こうやって好きな写真を撮ってアップすれば知り合いはもちろん、世界中からリアクションをもらえるんです!」なんて言っても、さすがにそれはちょっと無理があります……
ということで作戦ミスだったことは潔く認め、目標変更。
町民、特に高齢者の方たちのデジタルデバイド、情報格差と言われるものを少しずつでも解消し、自分も含めた町民同士がゆるくつながる場作りとして継続することにしました。
今になって思えば、多くの方に顔や自分の得意なことを知ってもらえる機会となったため、とても良い取り組みだったなと感じています(退任後の今ではお仕事にもつながっています)。
全国にいる協力隊の皆さんで、何から取り組もうと悩んでいる方がいたら『スマホ相談』や『スマホ教室』の実施を強くオススメします。自分が知っている知識だけでもOK。少しずつでも確実に、あなたの評判が地域に広がっていきますよ!
・・・
相談者の傾向5選
想像していた通りの相談はもちろん、やってみて始めて分かる発見など、今まで受けた相談を振り返り、『相談者の傾向5選』をまとめました。
パソコンやインターネットの知識、経験値がないと「いきなりスマホってそりゃ難しいよね……」と日頃相談を受けながら感じていましたが、特に一番の課題だと思っているのは最後の⑤です。本当に多くの方が『聞くこと=恥ずかしい』と感じてしまっているようなので、身近にそんな方がいたらぜひ「スマホは電話じゃなくてパソコンです!上手く使えなくて当然ですよ!」と教えて(励まして)あげてください。
①横文字を説明する→新たな横文字登場のループになりがち
「アプリってみんな言うけどそもそも何なの?」
「アプリはスマホに自由に入れられる機能みたいなもので、ほらここから好きなアプリをスマホに入れられますよ」
「あ、ここにダウンロードってあるでしょ?そうそうダウンロードについても聞きたかったんだ!ダウンロードとインストールってあるでしょ?あれってどう違うの?」
だいたいこんな流れで横文字説明会に突入することが多々あります。
「横文字を使わないで説明してあげましょう」と、以前参加したオンライン研修でも言っていたし、実際自分もなるべく使わないようにしてはいるものの、結局スマホの中で表示されることは避けられないんですよね……だから最低限の言葉はイメージ図なんかも書きながら、なるべくやさしく伝えるように心がけていました。
②広告と広告以外の判断ができない
ヤマグチのスマホにはあまり出てきたことはないので、恐らく高齢者の層をターゲティングして出しているんだと思うのですが「あなたのストレージはいっぱいです!ここを押して不要なファイルを削除!」みたいな広告を見たことがありますか?「ウィルスに感染しました!」的なパターンもあるようですが、こういった広告が出て不安で聞きに来たという例も本当に多かったです。
本当に嫌なマーケティング手法だなと思いますが、実際に押してしまう人も多いので、なくなることはないんでしょうね。
ネットに散々触れてきた世代からすると、「いやそれ絶対怪しいでしょ」と思う広告も、残念ながら高齢者の方には是非の判断がなかなかつきません。
広告を押した後、そのまま得体の知れないバッテリー管理アプリや、スタンプという名の画像をダウンロードできるだけの謎アプリをダウンロードしてしまうパターンも多いので、本人がダウンロードしたつもりのないアプリがあった場合にはなるべく消してもらうよう忠告していました。
③画面に出てくるものすべての意味を知ろうとしがち
例えば相談件数もトップクラスに多い『LINE』ですが、これを読んで頂いているみなさんが利用する機能はLINEのトークがほとんどで、その他の機能やサービスを使っている方は少数だと思います。
「LINEの使い方を教えて欲しい」と来る方に、友達登録の流れやトークの送り方などを説明しているとハマりやすいのが「このマークは何?」「ここを押すとどうなるの?」と画面に出てくるものすべての解説になっていってしまうパターン。もちろん、いろいろな機能を知りたい、使いたいという方には「こんなことができますよ!」とそのまま教えてもよいと思います。
しかしその方がやりたいこと、できるようになりたいことに関係ない場合は「これは使わなくて大丈夫です。僕も触ったことないです笑」とわざと教えないようにしていました。まずは相談内容の解決を最優先にすること。そこに対して不要な情報を伝えたばっかりに家に帰ったら全部思い出せない……なんてことにならないよう気を付けていました。
④”らくらく系スマホ”に誘導された人の末路
最近はいわゆる”らくらく”と名が付くような簡単操作スマホを持っている方も少なくなってきたように思いますが、ヤマグチが相談室を始めた頃に苦しんだのがこの”らくらく系スマホ”を持っている方への対応でした。
・通常のスマホとUIが違い過ぎて、圧倒的に教えにくい
・最低限のスペックになっていることが多いため、動作がもっさり。ただでさえ上手くタップ・スワイプが出来ない高齢者が余計に使いづらい
この2点、特に1点目が最悪で、持っている方は周りに操作方法を聞いても「分からない」となることがかなり多かったんじゃないかと予想しています。同じ端末を持っている方が近くにいたとしても、その方は当然スマホに詳しいはずもないので……
パっと見はスマホ初心者に優しいように見えて、動作も鈍くて使いにくい、周りに聞いても答えてもらいにくい”らくらく系スマホ”は、きっと多くの方にスマホの苦手意識を植え付けた犯人の一人だったんじゃないかとにらんでいます。
⑤スマホについて聞くことが恥ずかしい
「こんな簡単なこと聞くのが恥ずかしい」
「子供に聞いても教えてくれない」
結構な頻度で聞くのがこのフレーズ。
スマホをうまく使いこなせないことが、とても恥ずかしいことだと思っている方がとても多い印象です。
冒頭でも書きましたが、そんな方には「スマホは電話じゃなくてパソコンなので、上手く使えなくて当然ですよ!」と必ずお伝えしています。皆さん携帯”電話”だと思ってスマホを使っているので、うまく使えない自分がおかしいんだと考えているようですが、スマホはパソコンです。パソコンを今まであまり使ってこなかった方が、スマホを渡されて困るのは当然だと思います。
また相談に来ているので当然と言えば当然ですが、相談できる人が周りにいないというのも、悲しいけど皆さんよくおっしゃっています。
一度教えてもらったことをすぐに使えるようになる方は少数で、「家帰ったらもう忘れちゃって、全然覚えてないのよねー笑」と基本的には2度3度と同じことを聞いてくることも多いです。そうなるとお子さんなんかに聞いた時には「こないだ教えたでしょ!」とついつい強く言われてしまう。そして本人は気を使ってあまり聞けるなくなる。そんな状況も多いようです。
歳を重ねて、もの覚えが悪くなるのは多くの方が避けられない事実。
相談室で質問にお答えしているときには、なるべく自宅に戻っても聞いたことを一人で実践できるよう「メモ取らなくていいですか?」と声かけをするようにしていました(何度同じこと聞いてもらっても大丈夫なんで、とお伝えすることも忘れずにしていました)。
・・・
便利で楽しい道具だと感じてもらうキッカケづくりが大切
ネットを見ても、メールを見ても広告だらけ、アプリのUIはすべて違って覚えきれない、タップ・スワイプは未だにうまく反応しない、意味不明の通知が毎日山のようにくる、などなど……多くの方にとって便利とはほど遠い道具になっているスマホ。
しかし今まで使いたくても使えなかった、または全く知らかなった機能やサービスが使えるようになった瞬間はみなさん本当に嬉しそうで、毎回こちらも嬉しくなってしまいます。
「好きな曲があるけれど、それを聞く環境がない」という方に、YouTubeの使い方をお伝えしたことがありました。更に「イヤホンがあれば場所を気にせずどこでも聞くことが出来ますよ。そこのコンビニにも多分売ってるんじゃないかな」と伝えると、本当に嬉しそうに「そんなこともできるの?ちょっと買ってくるわ!」と大はしゃぎ。
翌週道の駅の休憩スペースで見かけた際には、イヤホンを付けて優雅に音楽を楽しんでいました。
いざ何か調べたくても、多くの方が慣れずに苦労している『文字入力』については、『音声入力』の使い方をお伝えするようにしています。また、そのついでにカメラで撮った写真から画像検索できることを伝えると、「はーそんなこともできるんかい?」といいリアクションを貰えることが多いので、初めましての方への”つかみ”としてよく紹介していました。
「こないだ山に登った時にこんな蝶がいてね。教えてもらったやり方で写真撮って調べてみたの」といった感じで、相談そっちのけで自分で撮った昆虫や花などの写真を見せてくれる方も多かったです。
この相談室を初めてから、見附市でのスマホ教室(総務省の『デジタル化活用支援推進事業』として実施されているもの)を見学させていただく機会がありました。そこでの指導でも音声入力を積極的に使うよう勧めており、LINEの場合はスタンプを活用する方法も紹介していました。いかに難しい操作を避けながら、スマホの便利さ・楽しさを知ってもらうかを徹底している内容で、とても参考になったことを覚えています。
・・・
最後に
一度苦手意識をもった方がスマホをいつも”携帯しよう”とは思うはずもなく、家に置きっぱなしで普段は電源オフにしている、なんて方も少なくありませんでした。
そんな方も今までの生活をそのまま送ることができれば特に支障はないのかもしれませんが、世の中は待ってはくれず、社会はものすごいスピードでデジタル化が進んでいます。特に心配なのは、災害や犯罪などといった有事対応時に出る影響ではないでしょうか?そんな調査や論文などが出ているかは分かりませんが、今の時代において、スマホの基本的な操作が出来る出来ないだけでも、有事の際の結果が変わってくると思います。
総務省が舵をとっている「スマホ教室」をはじめ、最低限必要な操作方法をフォローしてもらえる場所は各地域に増えてきていますが、まだまだ足りないと感じます。
スマホの使い方に関しては、多くの方が先生になれるはずです。地域によっては中高生が先生として活躍している場所もあります。
まずは身近にいる『スマホが怖い≒スマホ恐怖症』の方にはぜひ、1つずつでいいので、自分が知っている知識を、スマホを使う便利さや楽しさを伝えてあげてほしいなと思っています。
・・・
今回は、まちでコツコツと続けてきた『スマホパソコン相談室』で、ヤマグチが得た気づきや感じたことをご紹介させていただきました。
もしお時間ありましたら他の記事や町のHP・SNSなども覗いて頂けたら幸いです。
残念ながらヤマグチは2024年11月をもって任期が終了となったため、この記事が自身の最後の更新になるかと思います。
あまり多くの記事を残すことはできませんでしたが、少しでも田上町に興味をもってもらるきっかけになっていたらうれしいです。
田上町について、お時間を割いて下さりありがとうございました。
地域おこし協力隊のヤマグチがお届けしました!